鵜原咲子「ぶらんこのむかう」（2012年：青磁社）
こめんと
第１歌集。池本一郎跋。帯・花山多佳子。下関で公立幼稚園の管理職として働く。いわゆる「幼稚園の先生」というイメージだけでは語れない、管理職としての厳しさもにじむ。子供を育て上げ、老親を送って、しっかりとした人生の軌跡がある。
付箋
身のまはり心合はざるこんな日は夕陽に背を押されて歩く
書き出しはいかなる言葉か翌朝のコンビニに各社新聞を買ふ
引き合ひつつ戻し合ひつつ幼子と二人縺れし毛糸をほどく
泣く方が是とは限らず五歳児のふたりの間言ひ分を聞く
集合は鯨の骨格標本の下です お昼の解散の指示
説明する男の細き薬指ばかり見てをり午後の会議に
冬季鬱は日光不足のせゐなれば今日のしばらくは窓際にをる
友達の電話番号整然と並びをり子のさびしき手帳
婚決めしも花嫁衣装選びしもケータイ電話に伝へ来し娘は
祭り果て男も馬も影となり細き提灯に連なり戻る
あることを無いことにしてないことを有ることにして男の面子
ぶらんこの向かうに広がる天空はこんなに明るく足で蹴るなり
職退きし夫がひとり見てるらし朝のテレビのゲゲゲの女房
