畑 彩子「虫の神様」（2017年；ながらみ書房）
こめんと
第３歌集。帯・馬場あき子。
付箋
「虐待死は男児に多い」という記事を子が眠る間に五度読み返す
「たまちゃん」と胎児を名づけ長男はたまちゃんのためにおもちゃを作る
魂は塊に似て目の見えぬみどりごがああと泣き出す夕べ
虫を飼う息子は神はいると言う「脱皮したとき神さまみたい」
西へ西へ向かう電車に揺られつつゲリラ豪雨の匂い近づく
よき兄を演じて三月たつ今宵「ほんとのぼくにもどる日がきた」
手をつなぎ帰ろう小さな花が咲き小さな人らが寄り添ういえへ
曾祖父の愛馬が眠る裏山は削り取られて県道となり
序の口の小さな力士が扉の陰でハンバーガーを食べている真昼
泣きながら担任を責める母のいて教室の中も夕暮れてゆく
あの柱時計が昔はこわかったボンと鳴り出すその瞬間が
苛める側にまわれば苛められないと息子は言えり目を逸らしつつ
防人のごとき夫が帰り来て長男次男の背丈におどろく
兄よりもよく食べよく泣きよく眠る弟という得な生きもの
原発反対デモに参加せし父母いまは原発近くのプールに通う
