本嶋美代子「木の長椅子」（2010年：青磁社）
こめんと
跋・吉川宏志。定年を前に亡くなった夫を恋うる歌も多い。
付箋
過ぎてゆく貨車の間にぽっぽっとビニールハウスがひかりを返す
透かし見る赤セロファンの向こうにはピースサインのまっ赤な男の子
路線バスゆらゆら車体を揺らしつつ一人の客を乗せて去りゆく
カラムシの敗れたる葉をふるわせて吹き返しの風庭をわたれり
二歳児の二本の指がテーブルのご飯ひと粒つまみ上げたり
亡夫あてのダイレクトメール封のままバサリ捨てたり音が残りぬ
とりどりの袋振りつつ群れ帰る子らの声高き金曜日の夕べ
われのために夕餉の支度ととのえて息子は友と出かけゆきたり
