なみの亜子「そこらじゅう空」（2021年；砂子屋書房）
こめんと
第5歌集。物語を重ねて読むと、障害を負った夫の介護、老いた両親の介護と看取り、心のよりどころだった大型犬二頭の死、自身の体調不良など、はらはらし、共感し、最後のページまで行って呆然とした。同い年の作者。最後は自分が大事だよ、と言いたい。
付箋
間隔の小さき雪の降りだせば山おのずから身をのりだしぬ
家移りにいたりて気づく大切なもののわれになんと少なし
うたのこと父母のこときみのことほんま言うたらもうめんどくさい
二〇〇人待ちの特養に母入れて達成感のごときを得たり
次第に家人に居られるだけで体調の狂うわが身にわが身のうめく
もういないココの布団に生きているシイの移りて動こうとせず
母逝けばむすめはむすめをやめていい時にすずしく思い出し泣く
ふかく疲れて西へ戻れば細き雨寒がりの母のしたように腕擦る
生きていて今が一番つらいですと何度も言えばかすれゆく今
蝉声に罅の入る耳 感情は泣くか怒るかどちらかとなる
こわれ方は一様でなく葉の落ちた大樹の間を空は埋めおり
誰からも離れて誰とも会いたくて こころの空き地に草ののびゆく
