谷口純子「ねずみ糯」（2015年；青磁社）
こめんと
第2歌集。2010年ころからの歌。急逝した夫への挽歌も含む。
付箋
この一途さはどこより来るか曼荼羅を仕上げて息子は散歩にゆけり
猫の気配このままずっと消えぬだろう今日は藤椅子明日は卓の下
桐の花踏まないように踏むときの足裏たしかな質感のあり
けたけたと傘のお化けは笑うかな日に乾かしてていねいに巻く
『１Ｑ８４』上巻下巻よみおえて歌ができない締切二日前
有給をあまた残せる娘はわれとホームズを観る約束をせり
とびっきり強くて弱い裕子さん その事がわたしの救いであった
図書館の灯りがとどく広場なりひとりの影がおおきく映る
八階は巨人の高さその窓のあけぼの杉をふたりで見ている
研究室のドアの名札ははずされて不在が非在にかわる今日から
ようやくに年を越えたりいちにんの欠けたる卓に重箱ならべて
いつまでも十九歳のような息子なれど管理組合理事となりたり
