田宮智美「にず」（2020年；現代短歌社）
こめんと
第一歌集。栞・阿木津英、松村正直、北山あさひ。山形出身で仙台在住の作者。「生きてきたとおりに歌は出来てゆく」と後書きにあるが、そこはかとない淋しさがただよう。
付箋
閉店の決まりし店に今日もまた老夫婦来てコーヒー飲めり
でも君の最後の相思相愛の相手はわたしのままだ 潮騒
服薬をするために食む朝ごはん晩ごはんなり少し肥えたり
しあわせな歌が詠みたい誰からも全然ほめられなくていいから
虹、虹と幾たび言えど通じぬを「にず」でようやく伝わる、祖母に
東京であの三月を過ごしたるひとの手ぬくし仙台駅前
冬用のコート羽織れば冬になる駅への路をスズメが遊ぶ
仙台駅にセーラー服を見かけたり半分は就職する母校の
最上川はわたしの町を君の町を流れゆく川 赤い橋見ゆ
助手席のシートを直す 足の長い誰かの座った季節を直す
教え子を二人孕ませ不倫までするから与謝野鉄幹きらい
猫耳のメイドがティッシュ配ってて渡されないでその場が過ぎた
虫除けに鉢へ置きたるにんにくの一かけらより芽はのぞきたり
