島田幸典「no news」（2002年；砂子屋書房）
こめんと
付箋
なに喰わぬ顔して猫が戻りくる角度できみのメール届きつ
しら鷺はつばさを撓め水に降る水面におのが影確かめて
ガラス戸に軟禁された夏空は冷たし指の先でなぞれば
雨傘の柄を肩に乗せ歩むなり用なきひとは用なきなりに
＜昭和＞でも通用しそうな路地がありはたてに白い朝顔咲けり
江戸のころ見えたりし海見えぬ坂ふかく下りぬ陽に圧されつつ
＜非常口＞（EXIT）明るき場所に逃げてゆくひとのあたまと胴つながらず
死後もまた抜け出して来ん川と川出合う出町の豆餅ふたば
あさく反る橋を二台の自転車がちがう速度で渡りゆくなり
温からんコピーの束を抱くように抱く事務員の二の腕長し
たましいを預けるように梨を置く冷蔵庫あさく闇をふふみて
