加藤武朗「のぞみとのぞみ」（2025年；青磁社）
こめんと
第2歌集。跋・真中朋久。「大きく変わって流れに乗るのか小さく変わりながら片隅に生きる場所を見つけるのかはそれぞれだが悲観せず楽しんでゆこう。」とある。
付箋
瓦礫として固められたる塊の中の自転車らしきが光る
服濡れたままの身体はストーブに寄りて乾かす湯気立てながら
日本製中国製を見分けおり糸尻見ればおおかたは当たる
亡き友よ見えるか花が咲いている君好きなりし紅いヤシオだ
病得てはじめて休むことできるわれらじゃないのかゆっくりやすめ
新年の日帰り出張旅行なり「のぞみ」は人を忙しなくする
日本では話せぬことを子と話す移動に時間がかかる中国
明治神宮体育大会庭球に二度優勝せし小さき母なり
沈丁花咲きいる庭に立ち止まる母をホームに置きて来し午後
鶯が前の茂みの中に鳴く 鳴きぬ鳴けども見えずまた鳴く
君の名とわが名が裏に彫られいる皿をときどき使ってみるよ
三男がどうして同居するのかと妻に聞かれしただ一度のみ
想い出が途切れず還る火葬場はときどき人を饒舌にする
家族葬なれどお前は来いという遺言どおり東京へ行く
家族だけ五分だけならいいですよ突然許可でて妻現われる
手元までなかなか来ない野の鮎は一度寄りきてまた引き込めり
入院中百回くらいは言ったろうわが姓名と生年月日
忙しい時ほど趣味は面白い街に働き自然に遊ぶ
変わらないことが大事で変わらねば消えていくもの家業というは
