永田和宏『置行堀』（2021年、現代短歌社）
こめんと
第15歌集 2013年から2017年。表示できない漢字は表示できるものに置き換えてあります。すみません。鶴見詣では近所に住んでいた鶴見俊輔のこと。
付箋
着地点をさがせるやうにゆつくりと紙飛行機が水平に行く
死んだつてやつぱり道に迷うだらう呑気さうに梅の花など嗅いで
掴まれてゐない吊輪がいつせいに傾きて電車は海の弧を巻く
本所には置行堀のあるといふ置いてけとなぜ叫ばなかつた
四度目の夏至がまた来るさびしさともかなしさとも違ふ夏の入り口
ここにゐるべきひと多けれどゐてほしきたつたひとりのひと思ひをり
権力より隣組こそ怖ろしと言へばいづれも老いがうなづく
どんな言葉をわれに託して死にしならむ父は最期を語らざりにき
鶴見詣でと言ひつつ夜を歩きたり木蓮の塀を左にまがり
手のひらのやうに九月の雨は降り肩がやさしく濡れてゐしのみ
天井のひとところ色の変はりたり夜ごとあなたに線香を焚く
二人ゐて楽しい筈の人生の筈がわたしを置いて去りにき
凄いわねえとあなたが褒めて褒め上手褒められ上手のわたくしがゐた
葉牡丹をキャベツと言ひしひとつこと生涯かけてきみは愉しみぬ
