青木朋子「大空の亀」（2010年：青磁社）
こめんと
第１歌集。真中朋久解説。「ものを読むこと、そして回想しながら物語り、歌うことの喜びに満ちた作品である」
付箋
谷間から薄の原を駆けのぼる風の足あと一瞬に消ゆ
朝顔が蔓を一巻きするあひだ竿いつぱいのＴシャツ乾く
わが前へ電車の影が先に着く十月十日の空は快晴
人一人すくへるほどの大きさの北斗七星棚田の里に
ベランダのりんごの盆栽小さき実を鈴なりにつけ冬が近づく
舞台にて弾き語りする吾子の歌初めて聴きぬ初めての声
身近なる人を拒みて遠き人請ふ形かも読書といふは
壊れずに我のもとへと届きたる紙飛行機をまつすぐ返す
母の字のノート一冊見出でたり俳句、なぞなぞ小さく書かる
通勤の駅に会ふ人日を重ね会釈を交わす一人となりぬ
蕊見せぬ高さに花の咲き満つる白木蓮に深き空あり
二つ三つおのれの影を従へて灯りのもとを行く春の宵
