梅内美華子「真珠層」（2016年；短歌研究社）
こめんと
第６歌集。父の病、震災、友の死、など、「内側に層がしんしんと堆積して生まれる光に、歳月の中の寂しさや哀しみを重ねて思うようになっていた」と後書きにある。
付箋
頬杖に張りつめた影を守りつつ学生の歌をじつと読みをり（悼 河野裕子さん）
父剥きしりんごの果肉の黄ばむまでわれは帰らず父は午睡す
ガラス片掃き寄せる母ふるさとの倒壊のあはひに腰を屈めて
荷を巻けるビニール紐を切りたれば撥ね上がり空のなにかを切りぬ
お粥より白飯となる入院食に体に力が入つたと父は
忌まはしき海の景色を消すごとく要塞のごとき防波堤たつ
令月は二月の異名 歌集名に愛せる言葉を刻みし友よ（悼 田中雅子さん）
心臓は動きてをれど脳はまつ黒 遮断幕のごと言葉が降りる
まだ何も起こらなければ・・・・小学校、介護施設が村に建ちゆく
願ひでも懺悔でもなく深き深き垂直落下の祈りするなり
教習所卒業試験を二度落ちしよりまぼろしのドライバーわれ
能面の内より見る世はせまく細くただ真つ直ぐに歩めよといふ
ここからはカリフォルニア州 山型に雪を積みあげ三沢基地あり
