坂井修一「亀のピカソ」（2014年；ふらんす堂）
こめんと
第9歌集。ふらんす堂の短歌日記2013。括弧の中は日付。
付箋
惑星をはづされしのちの冥王星（プルートー） このごろ親し冬のしじまに（1/12）
水槽の亀のピカソがその主の進歩史観をしづかに笑ふ（1/29）
罫線はさびしい青よそのあはひたちまち埋めて微分積分（2/5）
民族のこころは空で歌ふもの ピアフはすずめ美空はひばり（2/14）
うすぎりのカチョカバロ焼く静寂はすつぴんのわが妻をつつめり（3/10）
ほほゑみて配るもわれの仕事なり「そろそろセクハラですよ！」のカード（4/10）
昔から知つてゐるけどこのひともあのひとも髪が無くなつてゆく（4/26）
「迢空」は戒名といふ死はひとつはるかな空へわれをいざなふ（5/19）
うちがはに弱みをもてる＜顔＞として講堂はいま普請中なり（6/12）
くりかへす体言止めの貧しさやわれのことばの梅雨といふべし（6/23）
とめどなく積乱雲がふくらんで大音響にいかづちが飛ぶ（7/27）
「法曹を」あれは去年のけふのこと語尾ゆつくりと「やめる」といひき（8/10）
草の庭まだ鳴けぬ虫跳ねてきて子の黒靴の干さるるに遭ふ（8/16）
白虎隊ちやうじて帝大総長の眼光浴びてわが席がある（9/9）
乃木坂へわたしをはこぶ地下線路カーヴしてわれは迷宮深く（9/18）
方形の飛び石越えてあそびしか十年前は河野裕子も（9/21）
学位とは素足の裏のごはんつぶ とつたのだから歩けタケルよ（9/27）
秋晴れの芯なるスカイ・ツリーまで目をあそばせて北千住、朝（10/24）
のせられて痛い＜出世＞のくりかへし ここにもひとりあそこにもひとり（11/24）
闇のなか鏡がひかりわれひとり死者のすきまを這ひのぼりゆく（12/2）
悲しきは歌を詠まずに死ぬ阿呆 ひとのこころは虹たつものを（12/19）
