加藤英彦「プレシピス」（2020年；ながらみ書房）
こめんと
第2歌集。歌歴を考えると第2歌集というのに驚く。Oさんからお借りした本。
付箋
別れぎわに少しほほえむ耐えることしか知らぬ子になりてしまえり
帰宅深夜におよべば握り飯を食ういっしんに母がにぎりし一個
かたちあるものは撲たれむ土砂降りをしたたか弾きかえす舗道に
絵筆をはこぶその指さきのｈと刷毛が塗りこむ力やいのちの濃さや
空にふとき梁見ゆ あれは夢なかに父がひろげし腕かもしれぬ
まだそこにいるような気がしてならぬ語り口調が耳をはなれぬ
それぞれにとりもどすべき歳月をもてば大きなかばんを購いぬ
四ヶ月のメール千通つもりゆく雪、海にふる雪、きみと過ぐ
退社まぎわの数分を待ちわびて浜松町駅に雨ふりやまず
春にとぶ絮毛のような比喩をもてむかし臨みし河口を過ぎる
