関谷啓子「最後の夏」（2020年；本阿弥書店）
こめんと
第6歌集。帯・藤原龍一郎。両親を送り二人の孫を得た。日常が淡々と端正に詠われていて、安心して気持ちの波を乗せて読める。
付箋
まっくらな部屋より出でて庭に差す白くおおきな月を仰ぎぬ
願うことひとつに絞り雪曇る谷保天神にひとり来にけり
みどりごを負ぶいしままに眠らせて窓叩く雨しばし見ている
初雪の降る頃もっとも切なかり言葉知らねば立ち尽くすのみ
白雨すぎまた照りかえす路上なり濡れたる日傘干しつつ歩む
拾おうかと思いし鍵をそのままに道に残して歩みきたりぬ
何年も眠りつづけたような朝 目覚めて冷えた牛乳を飲む
カレンダーに大きく丸の印付け次に来る日を約束したり
やわらかく音たて川は流れおり母逝きて十日われの身の内
母の家ついに壊されわが持ちし合鍵ふたつ用なくなりぬ
母の座りし大き木椅子を引きとりてわが部屋に置きときおり座る
