江國梓「桜の庭に猫をあつめて」（2019年；角川書店）
こめんと
第2歌集。帯・馬場あき子。身のめぐりのいろいろな生き物と母の死、孫の誕生など、ゆるやかに流れる時間にのって歌ものびやかである。
付箋
空白の時間をひとりあんみつを食べに来て会ふ二十年後のわれ
怠けアリゐるから社会成り立つとふ新説は花の日照雨を呼びぬ
パエリアに櫛形レモンを搾るやう器用な手つきの意地悪もある
闘ふつて・・・？小高賢氏を送る日のしんしん降り積むあまたの問ひは
色褪せし高砂屋クッキーの空き缶とともに消えたり実家といふは
腸閉塞は忘れたころに 生きてゐること忘れぬために襲ひ来
朴の葉をうつ雨のおと母死ねば生きるは果たせぬ約束のごと
いつの日か我が家も空き家となるのだらう桜の庭に猫をあつめて
素数蝉の地の闇おもふ 老い父と娘らの呼ぶ声きはまる夜は
手際わるきわれを見かねて十人分の味噌汁作つてくれし先生
湯舟に聞く雨音かなし地に眠る母の聞いてる音かもしれず
