尾崎知子「笹鳴り」（2010年：青磁社）
こめんと
第１歌集。解説・吉川宏志。帯・小池光。自身の病気、母の死、介護職の現場、など重い場面も淡々と歌われている。それが実感を伴って静かな迫力となっている。
付箋
ビル壁に影絵のやうに動きつつ薔薇売る男の胴長くなる
青梅の落ちし草むらに屈みこみ小さく固き二粒拾ふ
あさがほの縁を歩くと言ひしひととウィンダミア湖岸を並びて歩む
大阪に生き別れたる娘がゐると何気なく言ひそのまま逝きぬ
粉をひく小屋のドアより出てきたる大男なりドアより大きい
自らを忘れ去られると察する時握る手離さず 母もさうなり
母の肩にそつと触れれば跳ね返す力ありたり霊安室に
ミシン二台動かす人なく部屋ぬちに枯葉のやうに溜る布たち
ニット帽脱がせればぬくき内側にもやしの根のごと父の髪あり
ふと消えた君を捜せばひつそりと額あぢさゐのまん中にゐた
