坂井修一「青眼白眼」（2017年；砂子屋書房）
こめんと
第10歌集。慣れない管理職のストレスから、入院して手術を受けるほどの大病を患ったと後書きにある。
付箋
十人に抜かれ一人も抜かざりきいつからかこんな良いカメである
竹の子よかの阮籍のいまあらば青眼白眼我はいづれぞ
なぜここにゐるのか今もわからない大学院生は研究をせず
生まれてはくづるる波を模様とすこの蝶はことば持たぬうたびと
にがわらひつづけて頬がくたびれて ひとりになつて私をわらふ
待たるるにあらずおもむくここちして石に赤字のわが名見てをり
おだやかにほろび果てむとさすらへどグローバルてふひといろの傘
なぎさゆく牛車のきしみ 教育を車輪といひしヘルマン・ヘッセ
誰彼の顔うかぶこともはや無しほのぼのとわれにさびしさが来る
歌を詠むビョーキの熊がをりまして棒立ちをして講義してます
「もういいかい」問へど答へは闇の風 さらさら吹いてわたしは凍る
産・学・官一番嫌ひなものはどれ？＜賢＞なるきみは「学」と言ひけり
大学を出てゆく息子 古酒（クースー）で送るは大学出られぬわたし
うつむいてひとのこゑきく教授会 顔の輪郭きしませながら
いつの四月かサンバの国へ子もゆかむ味付け海苔をそと噛みながら
真赤なる雛罌粟の花 まだ負けてないかと問へばそつと首振る
ふくろふもカラスも阿呆と鳴くなれどふくろふの阿呆まろきこゑなり
名も財ももてばあしたは刺されむやかくぞ悩める友をこそ嗤へ
ロボットもことばをもたば苦しまむ虹の下ゆく鉄腕アトム
富士となりそびゆとみれば崩れゆくひとりあそびの大根おろし
改札はぴつと音してひと送るゆつくり歩きをゆるさぬ街へ
鉛筆を雲形定規のふちにあてゆつくりと引く冬の鬣（たてがみ）
科学また世界壊すとひとはいふ 青薔薇よきみはいかにおもふか
キーボードＳの下なるホコリ玉わが名「坂井」を「赤い」にかふる
