川口慈子「世界はこの体一つ分」（2017年；角川書店）
こめんと
第一歌集。栞・栗木京子・梅内美華子・染野太朗。音大のピアノ科の学生で歌人。茨城県高萩市出身。
付箋
目の前の夜空叩けば音が出る気がしてきたり渋谷交差点
夕暮れのキャンパスあまたケータイが蛍のごとく発光始む
紅の椿の重み手にあればゆたかにわれの全音符鳴る
ピアノ弾く練習室に独房のごとき窓あり開花予想日
間違えた音が身体を抜けきれずハンカチ強く揉み洗いする
三百年先のバッハの演奏を想像すれば味覚が狂う
プラス二度ふるさとよりも暖かい東京に手袋を買いたり
パソコンもピアノも一歩で手が届くベッドに西陽が作るひだまり
最後まで緊張からはみ出さぬよう真っ直ぐ伸ばす頭と体
爪の上に乗って涙が震えてる私を一度離れたけれど
研究室に一人倒立するわれの学生生活どん詰まりなり
