小林信也「千里丘陵」（2003年：本阿弥書店）
こめんと
歌壇賞受賞者の第１歌集。淡々と、誠実に日常を詠んでいる。それがかえって新鮮で切ない。現役でちゃんと社会人している人だからこその深い哀歓が歌の土台を安定させているように思う。
付箋
口利かぬ奴のリストにまたひとり加へて椅子を一回まはす
社員にはふたとほりある隣人を裁ける社員と裁けぬ社員と
遊具ある駅前公園なじめざり駅員の無愛想こそがふるさと
五年前の社内旅行の写真には辞めたふたりが真中に笑ふ
机みな失せたる部屋にベル鳴れば床の受話器をかがみて取りぬ
焼香の列には古き顔見えて低く交せり元気かなどと
弁当の卵焼食ふ片方の端を今ごろ子も食ひをるか
ボール持つ手を高高と掲げたりツーバウンドでキャッチせし子が
カンといふ擬音叫んで振り抜けば布の打球は草むらに飛ぶ
選択も署名もせぬまま持ち歩く社より貰ひしドナーカードを
