藤田千鶴「白へ」（2013年；ふらんす堂）
こめんと
童話４編を挟む第２歌集。短歌も童話を内に抱えているようで全体としてゆるい物語になっている。
付箋
ムスカリの思い思いに伸びる春 もう長い約束はできない
覚め際に小さな赤いハンカチを振っていたのは誰だったろう
ちょんちょんとタオルの隅でその頭ふいてやりたし雀のあたま
投げられし檸檬のゆくえ思いつつきょう初夏の聖橋越ゆ
伸びしろは半年たっても伸びしろのままに試験はつぎの土曜日
白き闇赤き闇ありて世を去りし坂田博義、フランシーヌ・ルコント
指に摘むシロツメクサの真ん中にきのうの夕日のあしあとがある
橋ひとつくぐりし後の明るさよ流れゆくなりパドルをとめて
磨硝子の窓のむこうにいつも海ひかっていたり日暮れていたり
