山内頌子「シロツメクサを探すだろうに」（2018年；角川書店）
こめんと
第２歌集。帯・吉川宏志。京都で生まれ育ち、現在は東京在住。パワフルに活躍している。第１歌集に続きタイトルが独特。
付箋
アドレス帳のうすきを出してながめたり見せ消ちにせし住所もありて
ちゃぶ台を今日は出さずに過ごしいる長い手紙はまだ書けなくて
友人に遠距離電話をかけている互いの夫の帰り来るまで
スポンジを切り分けて使う職場には女ばかりのやり方がある
あはははと母音が子らを包むごと先生の声会にさすひかり
証明写真撮るたび違う町にいる数年前のジャケットを着て
青山の花屋に母は吸い込まれわれもつきゆくこの世のかおり
いつもいつも相談相手をさせている夫をしばし天空に放す
またひとりのぞみに乗りぬかくかくと麦芽の飴を一つなめつつ
あそこまで言われなくてもよかったと思いかえして思い返すのをやめる
祖母に似るわれは白玉だんご茹でつやつや祖母に会いにゆきたし
霧雨が本降りとなり濡れ方のそれぞれちがう人ら行き交う
観覧車二人で向かい合う空の中このままでよかったんだね
指のさき魚鱗のように揺らしつつ橋を渡れり 橋が重たい
紙ファイル四センチあるマニュアルを読んでは覚え覚えて忘る
