本間温子「書架をへだてて」（2017年；青磁社）
こめんと
第1歌集。跋・池本一郎。鳥取県三朝町在住。
付箋
灯の点る家に帰るは嬉しきや職を退きたる夫の待ちいて
いつよりか己のしごとと疾く起きて夫は雪掻く隣の分も
稲熱病にかかっているぞと老いの言う写真展の稲じっと見つめて
山川の瀬に芋車まわりおりかたかた冬のくる音がする
手作りの母の歌集は『夕茜』良き嫁なりとわれ詠まれいつ
越後より届きし手紙二百余通母の歳月われらのさいげつ
亡き母のかがりし手鞠のオルゴール巻けば鳴るなり「雨降りお月さん」
晴れた日は雪の富士山見えるとう子の家を訪う坂をのぼりて
教室に貼られし自画像 黒き髪くろき眼はわが息子なり
ミシン工なりしおみなはヘルパーになりて隣家の老いびとを訪う
振り込みの終わりてメガネはずしたり防犯カメラににっとほほえむ
八十回貸し出されたるゾロリかな繕い待ちて子が借りてゆく
入植せし因幡の人らを思いつつ釧路市鳥取大通ゆく
濃緑の糞をのこしてはつ夏のキャベツに居たりまんぷくあおむし
濯ぎもの一日で乾きし二月尽書き留めておく今日の一行
