西村美智子「瞬の間に」（2024年；青磁社）
こめんと
第2歌集。作者は92歳。後ろの方にある昔の離婚のシーンはずっと心の内に引っかかっていて人生の終盤にやっと吐き出したのだろうなと思う。
付箋
さるすべりここにも咲くと軍事便師の消息はそれで絶えたり
よっこらとかけ声で乗る車椅子娘に押されなだりを登る
な忘れそかの戦争を さるすべり葉月来たれば天染めるなり
高層のあわいを唸り嵐来る空襲思う生き残りたり
「うどんなら喰うで」が最後のことばなり握りし手より父冷えませり
友を捨て短歌を捨てて去りし京追憶のなか花が連なる
二本杖驟雨きたれば濡れるのみ傘持てざればただ濡れるのみ
基次郎の檸檬求めて丸善に共に群れしが皆逝きにけり
日々メールきぞはくれたる孫なりき今は何処で秋を見送る
不器用なシングルマザーでありしかど働きながら汝を育てたよ
さみどりの古墳もとおり万葉を語りし友ら春来れば偲ぶ
花つぎつぎ散るたび人も去りゆきて年々歳々空間ひろく
無言電話なれどもおんなの息遣いわれは切なく受話器握れり
瞬の間に九十二歳になりましたあなにやし夏また逢いましょう
