栗木京子「けむり水晶」（2006年：角川書店）
こめんと
煙水晶（けむりすいしょう , Smoky Quartz ）は灰色に色づいた水晶。 ケイ素を置換した微量のアルミニウムイオンが特に多量の放射線を受けると色中心となり、光を吸収するため灰色に見える。受けた放射線の量が多いほど色が濃くなる。
付箋
蟻よりも大きな雨粒地を打ちて蟻の宇宙は満ちあふれたり
あぢさゐが土になだれて咲くところ泣きじやくるとふ言葉おもほゆ
大粒の雨降り出して気付きたり空間はああ隙間だらけと
あや取りの糸のかたちに冬の陽は揺れをり白き山茶花の上に
庭の落葉燃え尽きしのちひつそりと火を離れゆく火の匂ひあり
弥生尽こころの底に少しだけ溜まれる水に月が揺れをり
帰り来て月光のなか服脱げば管のかたちの闇すべり落つ
ミステリーと焼き立てメロンパン買ひて帰らな今宵独り居の家
ゆふぐれの墓地を歩みぬささやかな身の幅ほどの空気動かし
石仏にとまりたるまま透きとほるトンボ日暮れて尾のみが黝し
水底に沈むがごとく眠る夜のこころが見る夢、からだが見る夢
混沌はのつぺら坊の神なれば炬燵で寝てをり雪の降る午後
チャンネルを変へつつ朝のテレビ観る増えゆく数字競はせるほどごと
フリンジの付きし織物かけられてテレビはむかし家を統べゐき
路地曲がりいやだいやだとつぶやきて歩けば皓し明治の月は
