谷光順晏「空とかうもり」（2018年；短歌研究社）
こめんと
第１歌集。解説・影山美智子。帯・馬場あき子。富山県出身、松戸市在住。
付箋
母の撮りし写真のわれのはにかみて母を見てゐる見られてをりぬ
「目で抱く」と詠みし人あり無言にて出でゆく子の背をしつかと見つむ
戻りきて座ることなどあるらむと思ひ出すたび洗ふ椅子カバー
退院のわかれの祝ひにひとつづつ五客ぞろひの小鉢わけあひき
四十五周年むかふる団地常盤平に母は独居老人と呼ばるる
一夜泊りて息子は帰りぬ手洗ひの蛇口の固く閉めてありたり
療養所に父を亡くして婦負郡の名も合併に消えしふるさと
「この絵本いいねえ」母の開きてはいくども鳴かすこほろぎの唄
空に地図あるらし四羽の白鳥が翼をたたむ千駄堀池
