溝川清久「艸径」（2021年；青磁社）
こめんと
第1歌集 帯・永田和宏。ベテランの実力者の第1歌集。
付箋
暮れどきに雪かぜわたり竹群の尖より少し下が音立つ
誰の墓も竹の枯葉の降るなかにおのが高さの影を持ちをり
どの道も気象台へと続きゆく猫洞通りを散歩に選ぶ
ロゲルギスト七人のうち五人まで既に在らぬを奥付に読む
手放せる方に立ちつつ古本の背文字ながむるシマウマ書房
草の名はかなで書くべし風わたる木蔭に寄りて野帖をひらく
子の文字で「なにかのたね」と書かれありバウムクーヘンの箱のおもてに
土手に咲く草の名の美し今しがた付けたるごとく野帖に記す
さくら花仰ぐなく子の発ちゆけりサドルを元の高さに戻す
二週間を臥せゐるひとに届けむとつぼみの多き梅が枝さがす
杭を打つ位置決めをれば対岸にブラスバンドの校歌はじまる
すこしづつ身軽になるといふことの茶の花を見し径へ日の差す
ひむがしの岸に水音の高くして春の飛石わたり終へたり
