勝手に付箋

松尾祥子「シュプール」(2012年;柊書房)

こめんと

第3歌集。やさしさと中年期のはつかな悲しみをたたえた歌集。

付箋

奴凧つくりて揚げし杳き日の東京のそら碧ふかかりき
びよびよと犬は鳴きたりねうねうと猫は鳴きたり古き日本に
職場まで旅するこころ吊革の穴より秋の空をのぞいて
まばたきが合図なるらしふたり子はわが説教をさへぎりて立つ
母の打つメールはいつもひらがなでふはりととどく「まってますはは」
あまたなるシュプールのなかただひとつ君のシュプール選び従きゆく
ゆふぐれの畑に茄子はむらさきの小さき闇を育ててゐたり
「でんわまつ」母のメールは短くてピロピロとどく足病みてより
広辞苑五版になくて六版に「風評被害」あるをかなしむ

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