春日井建
井泉（2002）
- 雪を得て街はあかるむ昨日敷きししろたへに積むけふのしろたへ
- 掴み得るほどに雲あり窓のそと湿りてけふの咽喉は安けし
- 青春は近景にしてされど遠し林の奥の日向に憩ふ
- 失ふは失ひはてて涼しきを月のひかりに沐浴をなす
- 薬膳をともに摂りしはわれのため病まずに逝きし母のかなしゑ
朝の水（2004）
- 片照りて片翳る原いちやうに葦は枯れたるままに直立つ
- 白花は枝を離れてふきあがる上がれるほどに日に溶けながら
- 床に坐し書籍を束ねゐし姿ふりかへり見ればまだ影が在る
- てのひらに常に握りてゐし雪が溶け去りしごと母を失ふ
- 昼かげろふゆらゆら揺るる日向にて今年も会はむ咲へる花に
未青年（1960）
- 大空の斬首ののちの静もりか没ちし日輪がのこすむらさき
- 凭るれば地下の石柱つめたくてさんざめく都市を支へをり
- 刺すことばばかり選べり指熱くわれはメロンの縞目をたどり
- 沈丁花の淡紫のしづむ午さがり未生の悪をなつかしむなり
- 束ねたる髪をほどけと言ひつのる夜よ雪渓をすべる水音
