宗形 光「スマトラトラ」（2019年；本阿弥書店）
こめんと
第１歌集。解説・三井修、帯・永田和宏。作者は国税庁関係の専門職員であるが、守秘義務もありストレートな仕事の歌は少ない。前半のおずおずとした相聞歌が懐かしい感じを醸し出している。
付箋
古書店で手にせし歌集鉛筆の印付さるる一首のありぬ
休日の通勤電車は私服にて空を見上げて歌を詠みおり
パソコンも季節によって変わるらし夏モデルという広告ありき
昨日までのことがら何もなきごとく朝は始まる電車は走る
縁石に吹き溜まりたる銀杏の葉 信号機には黄が灯りたり
夕風に転がるように駆け出して落ち葉がわれを追い越してゆく
ホッチキスの針を外してコピーして針穴にまたホチキスをする
剪定を終えたるばかりの銀杏樹は空に書かれし隷書のごとし
池袋のブクロに力を込めながら繰り返される車内放送
どこからが埼玉県になるのだろう荒川大橋自転車で漕ぐ
スマホいじる人あまたいて中指派より親指派が優勢と見る
一式の書類のコピーを揃えつつ紙のほのかな温み確かむ
地元です、地元、地元と候補者の乗らぬ車がゆっくり過ぎる
運ばるるドッチファイルの厚さから掘るべき穴の深さを測る
順番に受けたる名刺を順番に歌留多のように並べていたり
三十年当該職員であるからに違和なくなりぬ当該の文字
