森川多佳子「スタバの雨」（2013年；短歌研究社）
こめんと
第1歌集。跋・馬場あき子。帯に「生きるとは何か、いのちとは何か、人間はどうあるべきかを長く自問自答した結果として詠まれた一連である」とある。
付箋
戦死せし息子に花嫁人形を献じし母あり悲し日本
卒業し明日は着ない制服が壁に掛かれり子のかたちして
訪へば駅前通りも小路なりふるさとも父母もちひさい
プラタナス剪られず伸びて翡翠いろの紡錘ならぶドイツの街路
馬二頭国賀の崖の草にゐて海ひくく航くわれに尾をふる
いろいろのポケットありてよく入る鞄買ひたり重くても持つ
われの服子の服あまた縫ひくれし義母の右手を白布にぬぐふ
ぼんやりと降りる駅名見てあればわれ乗せたままドアが閉まりぬ
はみ出ぬやう一線まもり塗つてゆく「大人の塗り絵」もわが日常も
胸うちを蝕みしもの取り去ればからだぢゆうから湧くちからあり
闘病は祭りのごとき華やかさ過ぎてひらたく冬がはじまる
死ぬことはたいへんだから生きのびる生きてゐるから少し頑張る
