土肥朋子「涼しいうさぎ」（2013年；青磁社）
こめんと
第1歌集。解説・吉川宏志。琵琶湖の湖北に生まれ、今も湖の近くに住む。税理士事務所を営む歌も面白い。
付箋
数滴の墨薄めたるひと色にさえぎりもなく湖明けていく
小声にて資金繰りなど聞く机に萩やわらかく今朝は垂れたり
前足を揃えて私の膝にかけやわらかき意思うさぎは持てり
餌を播けば水面つつきて緋めだかのどれも斜め立ちして泳ぎだす
光差す白き衣裳の裾曳きて娘が立つむこうに湖の見ゆ
雨ののち秋のはじまる匂いして両耳静かにかさねるうさぎ
明け方の風に片耳動かしてうさぎ涼しく眠りつづける
梅雨晴れの子らわき道の水たまりふたつみっつを濁していけり
ものの影みな遠ざかりみずうみにたったひとつの月が映れり
早逝の母からの手紙われにあらず春田のタニシ共に拾いし
