加藤和子「天球の春」（2014年；ながらみ書房）
こめんと
第2歌集。「ヤママユ」「塔」所属。秋田県在住。
付箋
若き日に読まざりし書の一行は深井の藍の水湛へけり
酷きまではつあきの空明ければ時間に耐へたるポプラ樹を撫づ
交配の極みにうるはしく咲きし新種朝顔種子をのこさず
ゆるゆると霧氷ゆるびてしづくせる樹々にわたしも伸びをせりけり
「１人死亡」の新聞の記事縦書きの１人は胸にしみて淋しき
水の器にヒヤシンスの花かをらする冬の童話を母に教はる
君もふと空をあふぐやはじめての告白のごと郭公啼けり
粉のやうな花をつけたる稲の辺をよぎりてま昼葬列のゆく
ストーブの温気に曇る硝子窓けふかもしれぬ白鳥の飛来
青田の上ゆるりめぐれる鳶の輪に一羽加はりともに移ろふ
日の没りのゆふがほの花ひらききりほのかに瓜のにほひを放つ
うすじろきゑんだうの花愛しみし母おもひつつ支柱立てゆく
