三井修「天使領」（2024年；角川書店）
こめんと
第11歌集。歌集タイトルは台風被害を受けた上総を訪れたときに見た屋根の上のブルーシートの鮮やかな青色の印象から、のようだ。能登出身の作者。能登を出て、商社マンとして中東で活躍した。Oさんからお借りした。いつもありがとうございます。
付箋
かつてわれ商人としてシリアなどを旅せり髭を生やして
ビルの影、木の影、我が影 一方に倒れて都心の休日静か
天使領ほどの真青のシート置く人の気配のせぬ家の屋根
碑に彫られし死者の名のなかのしんにゅうまでを春雨濡らす
※実際は”しんにゅう”はルビになっている
その着物覚えておれど顔ははやおぼろとなりぬ 手をつなぎいし
戦場というが比喩にはあらざりき我が若き日のビジネスの地は
一度だけ、そう一度だけ握りたり冷たく黒く重き銃把を
結句なる七音書きてペンを置きその後の余白に心を放つ
ひたすらに降りくる雪を見上げつついつしか我は能登の少年
榛の木の幹に凭るる一輪車 世界はそこより静かに暮るる
