尾崎朗子「タイガーリリー」（2015年；ながらみ書房）
こめんと
第2歌集。栞・伊藤一彦・島田修三・米川千嘉子。帯・馬場あき子。タイトルのタイガーリリーはピーターパンに出てくる酋長の娘で、フック船長に抵抗した少女の名前と言う。
付箋
たれか死に動かぬ電車ひとびとは顔をあげずにメールを打ちぬ
死ぬ気ならなんでもできるといはれきて自死者三万人の花冷え
鞄へと退職届ひそませてブーツのファスナーきゆつと上げ行く
まつさらなかなしみ抱く通夜の列音漏らさずに雨降りつづく
脳死の是非わからぬわれは混沌の母性わからず記事切り抜きぬ
ひとり身の四十代は棒のごと撓めのきかざるからだとなれり
母の生われに託さるることの増え同意書幾通に署名せし秋か
退官後の研究員がわれだけに南極の夜の空を語りぬ
ぱちぱちとまばたきのやうな音をたて南極氷が水へと還る
わが地に咲かざる花のうつくしさフランス語にうたふ「天才バカボン」
ほのぐらき節電の街に佇つ地蔵つねより力をもつてゐさうで
人見知りのいとこはわれをお姉ちやんと呼びきておたがひ四十代もなかば
反論はできないけれど会議前トイレに眉根をよせる練習
折るは祈るに似てなくもなし千羽鶴ぽつりぽつりとわれは祈りぬ
努力つて報はれるのかと聞いてくる二十五歳はラーメンすすれず
春たけて富士山はおぼろに、噴火せし過去もわれらは忘れてしまふ
