刀根美奈子「エスフォルソ」（2003年：青磁社）
こめんと
第１歌集。エスフォルソはポルトガル語で「いっしょうけんめい」の意味らしい。公立小学校の国際化対応講師として外国籍の子供に日本語を教え、その他こまごまと全般的な支援にいたるような仕事をしている作者の、さまざまな矛盾や苛立ちを抱えながらも「いっしょうけんめい」、誠実に立ち向かっていく姿が印象的。
付箋
ふりむけば梔子香る雨白し透明傘より歪んだ空みる
差別とうできれば触れたくないテーマ出され家庭教育学級始まる
木蓮に切り抜かれいるこの青空は風吹くたびにかたちを変える
丹念に前肢をなめる黒猫の舌を透かして夕焼けが来る
雨だれを友だちみたいに身につけて一年生が帰る「ただいま」
雨の日は中心線の定まらぬ自転車をこぐ傘を傾げて
「母さんの時間もほしい」と言いかけて欲しいのは「母さん」でない私の時間
うなってる風になりたい火曜日の会議はぐずぐずした議事ばかり
