鈴木眞澄「遠朱雲」（2014年；現代短歌社）
こめんと
第3歌集。帯・秋葉四郎。千葉県在住。武田武士の血を引くという歌も集中にある。
付箋
この夜は泊りゆく母わが家の干物ていねいにたたみくれたり
わが知らぬ日々に衰へ進みしか母は財布を持たず来たりぬ
慇懃にもの言ふセールス断ればわれより先に電話切りたり
転職の試練超えたる子の前途思へば心充つるものあり
わが前に音なくひしめき犠牲者の残し古りたる靴は山なす
引込線の降車場跡草に吹くさへぎりのなき風音ながし
手を結ぶ幼とわれと曳く影の長き夕べの道帰り来る
幼子を守らんとしてひとつ蚊を四人が追へば喜劇のごとし
わがうちにありし思ひを口にすることなく居ればやがて忘るる
買物の荷に桃の花ひと枝をまじへて夕べの道帰り来る
うつつにし地震の多きわが空に美しくして月蝕すすむ
あるときは兎のごとく野菜食ふ朝の血圧いくばく高し
その暮らし飛騨に根付きて入学の日を迎へたり今日とほく来つ
