花山多佳子「鳥影」（2019年；角川）
こめんと
第11歌集。お孫さんが生まれてからの慌ただしい日々の歌。ご自身の病気もあり大変な日々だと思うのだが、歌はのんびりとした雰囲気で、これは本人のキャラクターもあるかも知れない。
付箋
大通りは斜めに電柱の影置きて渡りゆきたき冬の朝なり
残りたるラビットフードを捨てるとき干し草の濃き匂ひは立つも
鼻あげる象のはな子の前にわれいくたびか居ていくたびか去る
つくつくぼうしひとつもなかぬふしぎさにさるすべりさくあはひをあゆむ
眠る娘に乗りあげてゐる赤ちやんがふりむきざまに吾に笑へり
どんぐりとゆりの木の実が散らばれり異なる種類の弾丸のごとくに
手をひきて夜の道あるけばどこまでも歩く小さい影ぼふし持ち
をさな子と手をつなぎゆく寒き夜の川べりの道に人影を見ず
うちつけに秋は来たりて過ぎし世のなごりのごとく咲くさるすべり
うつむける幼子の口とがりつつボタンは穴にほら、通りゆく
原発は逆賊の地に在るといふ論思ひ出す新幹線に
珈琲にメープルシロップ入れて飲むカナダ帰りの息子はひとり
雀鷂とふ小さな鷹の白き腹みあげてゐたり五月の梢に
