米川千嘉子「衝立の絵の乙女」（2007年：角川書店）
こめんと
第６歌集。作者の日常に入り込んでくる影、愛する者を、現代の不安を、つよく見つめるー帯より。
付箋
にんげんのさびしい息のおほきさの青風鈴に風は滴す
曇り日に月を待つときもの言はず甕照るやうにもの思ふひと
裏がへることなき男のこゑになり甘えたき日の息子わからず
観音につるつる水かけ撫でをればひたにかなしみ湧くいぶかしさ
幼日のせつないうすさもう持たず負けた身体を木陰に冷やす
境界をさぐる心は濃く悲し首ゆうらりと蓮の咲くそば
ちら、ちらり 雪降らす神の手加減を犬と子供はまつすぐ見上ぐ
病むときは静かに並んで歩くゆゑ息子の背丈よくわかるなり
小さくて暢気な母のりやうがはにわれと妹すこし疲れる
風不死の耳とふ小さき突起あり死火山にして風を聞く耳
歌は予言してしまふから 大事にてかなしいことをうたはぬメジロ
