井上良子「月の裏」（2007年：青磁社）
こめんと
跋文栗木京子。まず、装丁が洒落ている。ページの中身のインクの色も凝っている。 切れ味の良い視線と静かな寂しさを湛えた感受性と純真な発想が魅力と跋にある。 オーソドックスな歌い口ながらセンスのよさが光っている。
付箋
たんぽぽのロゼット土より三十度起きあがりおり如月二十日
青ばかり減りゆく吾子のクレヨンを思いて買い足す梅雨晴れの日に
母と語る口持たぬ子はわが知らぬだれかと話す指さきを持つ
わが歌の載りたる朝刊「新聞紙」とならずにずっと「新聞」のまま
シリアルに射しくる秋の陽ざしごとひらりひらりと掬いては食む
ケイタイの中に終わりし恋ひとつ少女は光る窓を閉じたり
恥おおき若き日の恋 あんぱんの臍の桜をしみじみと食む
こころとはやはり胸のあたりかな濡れそぼつごと今日は重たい
人逝きし日にもひしひし飯握り厨には寡黙な女らがいる
いますこし雨宿りせんコンビニに玩具のような化粧品見て
「もしもし」のたった四音に気づきたりわたしはあなたの声が好きなり
