大塚洋子「衝羽根」（2008年：青磁社）
こめんと
第４歌集。茨木県の北部、高萩市在住。若くして亡くなったらしい夫が少年時代に親しんでいた植物が「衝羽根」。それをタイトルにしたという。
付箋
大木の墓のさくらはただ一本残るのみなる花見にゆかな
同じ課のリストラされし数といふ息子が三つ菓子持ち帰る
朝空にびつしり敷布乾されゐて病院の屋上白くかがやく
街の屋根渡りて届く遠海鳴り夜の窓辺に寄れば聞える
娘の家に娘がひとりうすぐらき茶の間に何か書きてをるなり
餌を獲ると逆立ちをするマガモらの細き後肢水の滴る
うす青く明けゆく空に弦月が木星金星従へて照る
茨城の海と言ふ場合、鹿島だと息子の言へり夕餉の卓に
無関心と思ひてをればテーブルの歌を「軽い」と息子が言ひぬ
己が影を見ることなからむ大鴉フェンスに深き影を曳きをり
タイトルは『衝羽根』がいいね、夫言ひき背広羽織りつつ筑波の家に
三十年過ぎてしまひぬ夫のこと話すはいつもきのふのやうに
