高野 岬「海に鳴る骨」（2018年；角川書店）
こめんと
第1歌集。栞：三井修・川野里子・加藤治郎。塔短歌会新人賞受賞作を含む。葉山のマンションに夫と二人で暮らしている日々の微妙な翳りみたいなものが丁寧にすくい取られている。
付箋
栗鼠が鳴くことなども知る社を退きし君と住みゐるこの半島で
丸き石拾はむとして手にすれば磯の石みな小さき穴持つ
朝の堂に若き僧来て賽銭を米磨ぐやうに浚ひてゆきぬ
楼上のランチの席から見下ろせば和田倉濠に柳けぶれる
ベランダは仕切られながら次々と開く花火に手を叩き合ふ
朝刊を配りつつゆくオートバイが夜の緊張を解きてまはれり
喪の服の夫の背中に撒く塩が皺なき黒にはじかれて散る
ワンピースが風に飛ばされないための棒として駅のホームに立てり
ネクタイは太刀魚のごとひらめきて夫の灼けたる頸に巻きつく
都心から従ひて来て朝羽振る波を怖れし海といふ犬
冬の陽をかへすトングでウェイターがパンの一片載せてゆきたり
コンチネンタルブレックファースト待つ我の背後を知らぬ香水の過ぐ
占星術の本を買ひしが最後なりブックス二宮閉店してをり
天気雨ふるを鏡に見てをりぬベリーショートに髪切られつつ
ベランダの先の闇へと振り捨てし蛾がひらひらと昇りてゆけり
