永田 淳「光の鱗」（2023年；朔出版）
こめんと
第4歌集。それまで以上に自分の歌に対して責任を持たなくてはならない。という決意のもとに編まれた歌集。奇をてらうことなく、淡々と詠まれている。亡くなった母親を詠う歌も自然な感じになってきた。
付箋
竹たちに嫌な雨やなぁと言わしめし母の気鬱が乗り移りきぬ
ゆるく波紋ひろがりいたり春の陽の射す多摩川に あれは鯔だよ
遠くまで子供を探しにゆくことのもはやなければ灯ともして待つ
母あらば母の座りてあるはずの席にて父の受賞を見上ぐ
われの子で母の孫ゆえ仕方なし玲のこの喧嘩っぱやさ
子以外をまっすぐに叱る強さを欲す我にまだ一親のあれば
LINEとう通信手段こまごまと子は妻になにか伝えいるらし
大学生になりたる櫂の長身を見るなく逝きし母の九年
ぶっきらぼうは二十数年変わらざりそのぶっきらぼうをわが好みいき
実家には老樹一本まだ母が立ちて眺めえし季に咲きいき
雲の影ひとつを東に過ぎらしめ琵琶湖はただに光の鱗
弟に英語を姉の教えいる抑揚ひくき声のつたわる
山裾の小暗さのなか白光となりて咲きいる白梅一樹
