名嘉真恵美子「別れと知らず」（2022年；ながらみ書房）
こめんと
第3歌集。宜野湾市在住。沖縄の歴史は家族の歴史でもある。歌の高めの熱量が切実さを物語っている。
付箋
猪垣は低く石積まれ苔むせり山の生活ひそやかにして
パイナップルツリーの濃緑きはだてり街中に人の減りつつあるに
従はねば村八分ああこの国でいつかあつたことありつつあること
この頃の夕食豆腐を主菜にす胃腸笑へど口よろこばず
六度目の首里城を建てよ 県民の焦がるる熱情しづかに広ごる
戦死者の骨が残るとふ南部から土採り辺野古に埋める暴挙か
「世を捨てよ身を捨つるより」祖父の言葉思ひてゐたり豚煮詰めつつ
蟻地獄のやうなコロナ禍を生きてます 此岸の縁に立ちひとりごつ
ゆるやかな虐待に似る格差とふ埋まらない溝五十年は経つ
母に似る写真のわたし兵器もて追はれしことなきぬくとさに
庭先に群れるセイロン弁慶草いくさの朱の記憶と聞きぬ
困憊の祖母を手当てすと米兵が連れて行きたるままの別れと
お姉さん苦しかつたねとしか言へぬ病室しんと広がる海原
ほしいまま伊集ひと山に匂ひたつ五月の空はじつとり重く
