大口玲子「ザベリオ」（2019年；青磁社）
こめんと
第6歌集。歌集が落ち着いたと思った。キリスト教と息子さんの成長が心の安定を支えているのだろう。沖縄の基地問題も自分の痛みとして向き合っている。
付箋
くさぎの実しばし眺めてゐたるのち息子は小さき句帳をひらく
水遁の術を試すとスイミングバスに乗りたる子に手を振れり
空港に降り立つわれを待つ人がゐるはよきこと帽子を振つて
いちめんの菜の花揺るる真ん中にブルーシート敷いて昼寝をしたり
余所者として立つわれか貝殻の小さきをふたつみつつ拾つて
戦場に万年筆を持参せし少女のこころ 立ちてしのびつ
山からの雨に濡れつつ八重よりも一重が好きで山吹の花
「運動会好きではない」と言ひし子を退場門の陰からのぞく
二歳まで東北に暮らしたりし子が宮崎で踊る花笠音頭
戦争孤児の話をしんと聞くときの息子するどく耳を立てつつ
