山口伊満「冬の蝉」（2016年；書肆侃侃房）
こめんと
96歳の第一歌集。佐賀の社会保険センターの短歌会で70歳の時に短歌と出会う。解説・松村由利子。歌もさることながら、著者のエッセイ「わが人生の荊道」が壮絶。想像も及ばない、日本の前時代的な農村の暗さを象徴するような、貧しく過酷な人生を送り、大病をし、短歌と出会った。暗い70年を埋めるように歌が出て来たのだろう。
付箋
棚田沿ひ細き流れのひとところ青み初めたる芹の一叢
再びは田には戻れぬ減反田境界越えて竹の子の生ゆ
戦争に召されしうからフィリピンの小石一つとなりて還れり
噛み合はぬひづみに心痛む夜の蛇口滴る水音の冴え
