吉井守正「北上山地」（2015年；私家版）
こめんと
第2歌集（第1歌集も私家版らしい）。「槻の木」所属。堅実な歌いぶり。地球科学の国の研究所を定年退職してＮＨＫ学園で短歌を学び始めたと言う。戦争の記憶、震災の記憶、等を詠い留めておこうと歌集にまとめたと後書きにある。現役時代の野外調査の歌も実感がある。まさに「歌は自分の時間に錘をつけること（永田紅）」と感じた。
付箋
はばたきの音は聞こえず高空を群れゆく翼をあこがれ仰ぐ
避けるがに隔たりながら埋まりゆき車内はやがて満員になる
ここまでは再び来ずや沢奥の地層を確と野帳に記す
目的地までは百キロ徒歩三日ネパールの人ことも無げに言う
敗戦をどこでお前は迎えしか博物館の零戦一機
写真にて残せぬものは臭いなり爆撃跡に瓦礫が燻る
軍部より検閲ありて文面の一部を朱にて消されしはがき
地下深く生れし緑色変成岩伊勢内宮のきざはし清し
震災を見舞う言葉の定まらずメイルの指は打ちてまた消す
とまどいは死後にあるべしわれが待つ祖父、父、兄らわれより若く
