小澤婦貴子「雪紐」（2021年；本阿弥書店）
こめんと
第6歌集。解説・吉川宏志。長野県塩尻市在住の作者。「山国の陰翳が歌の言葉にも差し込んでいるようで」と解説に或る。
付箋
雪紐はほとりと落ちて雪なかに紛れてゆきぬ 在るは束の間
下り坂にブレーキかければ臆病な音して鳴れりきいきいきいと
いつせいに木槿咲き出し夏の空押し上げてをり朝のちからに
本を売りあなたとの別れ繰り返す七百冊を三度に分けて
春なのでミモザケーキを焼きませう花のかたちの黄の粒散らし
悩みなく生きてゐるなりひと椀の粥を食べぬしらすを浮かべ
姑に贈りし翡翠の指輪戻りきて太くなりたるわが指ともす
本郷は坂多き町路地ゆけば鐙坂、梨の木坂に出くわす
母の亡きわれの産後を気遣ひし晩年の叔母背の屈みぬ
