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湯川秀樹のうた

現代歌人協会2016年9月21日の公開講座（細川光洋○、栗木京子☆、渡英子△）より引用歌

○☆逝く川の流れの底の美しき小石に似たる思ひ出もあり
○少年の頃は忘れず縁側にひとり積木の家をつくりし
○縁側にランプのホヤを掃除する少年の日は遠くはるけし
○少年の日は永かりし箱庭の小さき家に心吸はれし
○箱庭の橋よ鳥居よ田舎家よここにわれ住む今も折り折り
○祭日のよろこびは先づきらきらと鉾の光の見えきたる時
○物みなの底にひとつの法（のり）ありと日にけに深く思ひ入りつつ
○天地もよりて立つらん芥子の実もそこに凝るらん深きことわり
○この星に人絶えはてし後の世の永夜清宵何の所為ぞや
○雪近き比叡さゆる日々寂寥のきはみにありてわが道つきず　（昭和20年暮れ）
○△深山木の暗きにあれど指す方は遠ほの白しこれやわが道　（昭和23年春）
○素粒子の世界の謎を解きあぐみ旅寝の夢も結びかねつつ
○まがつびよふたたびここにくるなかれ平和をいのる人のみぞここは　（広島平和記念公園に歌碑がある）
○移りすむ古京の秋の山なみの目にさやけくもかへる思ひ出
○比叡の山窓にもだせり逝きし人別れし人のことを思へと
○東山つばらに見ゆる窓とざし絶えなんとする脈をさがすも　　（生母の死）
○☆△大文字やこのいくとせの新仏ひともかなしきわれもかなしき　（末弟が2年前に戦病死していた報を受け）
○△時雨するけはひに曇る日なればかそぞろ身にしむ歌集『寒行』
○わかれさす光かそけき深山木の道ふみわけし人し偲ばゆ　　（昭和45年退官の年）
○天地は逆旅なるかも鳥も人もいづこよりか来ていづこにか去る
☆二人きて傘ひとつ借りて出でてみる海辺の宿の花の雨かな　（新婚旅行）
☆湧き出でし煙動かずと見てあれば空にたなびき犬の首となる
☆天地のわかれし時に成りしとふ原子ふたたび砕けちる今
☆ひとときは藷負ふ人の降りつづく電車わびしも板張の窓
☆忘れめや海の彼方の同胞はあすのたつきに今日もわづらふ
☆ゴンドラのゆくてはせまし橋と家夢にみしより美しき夢　（ベネチア）
☆雄鹿なく嵯峨野の秋のあはれさの深くなりゆく果てはあだし野
☆おじいちゃんしかしと二歳児はわれにいひてあとははははと楽しげに笑ふ　（長男の長女が昭和44年3月に生まれる）

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