歌集について

アホウドリ

　青磁社から原稿を印刷所に送り出しましたという連絡を受けたとき、 学位審査が終わったときのような安堵感を覚えた。学位の有無は、実力と 自信さえあれば研究上さほど重要ではないのだが、ずっと私の中で学位が 無いということが負い目となっていたので、これでやっと研究者として 人並みのスタートラインに立てたようなほっとした気持ちになったのだった。

　歌集を出すまで、私は短歌を作っていると人にはほとんど言えなかった。 回りの人たちのようなバイタリティーも無く、いつも引け目を感じていた せいかもしれない。そう言いながら、ぽつぽつと歌を作り続けてきた。やめて しまえばずいぶんと楽になれただろうに、われながら不思議な気がする。

　歌集の跋に花山多佳子氏が、私の職業は相当に特殊であるとお書きくださった。 跋を頂いた時は「そうかなぁ」と思ったのだが、良く考えてみると地球科学の 研究をしている女性は、日本では特別天然記念物のアホウドリよりもかなり 少ないのではないかと思う。しかし、歌集をお読みいただいた多くの方からの お手紙を拝見していると、立場の違いを超えて、皆も仕事と家庭との葛藤に 悩みつつ懸命に生きていることがわかり、大変勇気づけられた。そう簡単に 生き易い世の中に変わるとは思えないし、私自身が突然賢く器用になれる はずも無いのだが、次の10年は40代らしく、悩みながらも逃げずに歌を 作っていきたいと思っている。